『月の裏側』

恩田陸の『月の裏側』。これは再読なんだけど、この続き本がハードで出てたので読みたくなってしまって。この発想がドコからでてくるのか常々不思議でたまらない。ミステリというよりは、ほとんどホラー。多聞の飄々としたキャラクターはとても好感が持てる。作品冒頭に遊びと女の子に関する考察があるけれども、この本の中でもそれは実際に起こっているんじゃないかしらん。多聞の大学時代の後輩という女性が登場するが、私はほとんどこの人物に腹を立てていたと思う。普段ならとても聡明で物事をズバズバいう人間なのだろうが、緊急事態に見舞われたときのうろたえっぷりはなんだ。自己アイデンティティーの崩壊は女をこれほどまでに腹立たしい存在にしてしまうのかと、半ばプンプンと怒りながら読んでいた。各章の始めに事件後の登場人物(主にその女性)のモノローグみたいのがはいるのですが、その女性だけに統一していないせいか、そのモノローグのテーマがバラついているせいか、何のためにあるのかよくわからなくなってきます。物語り全体も初めが多聞が町にやってきた所から始まるのに、最後は女性の語りで終わっている。多聞が主人公なら、多聞が町を去って物語が終わってもいいとおもうんだけど。装丁はとても丁寧で綺麗。タイトルのレイアウトや文字も幻想的で、表紙も薄暗い堀のイラストで雰囲気あります。全体としてはとても面白いけど、なんか腑に落ちないところが時々あります。