『チルドレン』

伊坂の文は、読めば伊坂とわかるのが好きです。登場人物全てに愛嬌があって、みんな大好きになる。今回の『チルドレン』5つの短編からなる長編小説。らしい。登場人物は陣内というまあ、身勝手・我が侭・唯我独尊を絵に描いたような男を中心に登場する。彼の学生時代か、就職してからかどちらかの話。けれど決して陣内は物語を語らない。彼の周りにいる人物から、事件が彼が語られるという方式。最初のバンクはとても面白かった。永瀬は落ち着き払った、そうだな、優午を髣髴とさせる人だった。銀行強盗に文句をいう陣内は傑作だった。
陣内の台詞はどこかカッコイイ。クサイ台詞というやつだけど、どうも彼が語ると理屈っぽくて荒々しいのに納得させられてしまう。「親がかっこよくないと子供はどうせぐれる」とか。就職編の彼の台詞は特に秀逸だと思う。「俺は今までダサかったことなんてない」とか。確かにカッコイイよ陣内。彼みたいな人が友人にいたら楽しいだろう。ま、モテるかどうかはわからないけど(笑)

チルドレン (講談社文庫)

チルドレン (講談社文庫)

伊坂幸太郎の文は、いうなればピアノの独奏みたいで落ち着く。全部独りで出来ている。車のCMでもいいな。北海道かなにかの何もない道を、とにかく車が失踪するようなコマーシャル。そんな感じ。読み出した時から、完結している感じ。男の文章だと思う。雑念がない。
恩田陸は弦楽器の合奏かな。色々と重なって、時々気持ち悪くなるんだけど、全部同じ種族の楽器だから、最終的にはまとまってて安心する感じ。女の文章かと言われると、そうなのかもしれない。まぁ、恩田陸くらいしか読んでないからなんとも言えないけど。
いしいしんじは、私の中ではすでにフェアリーな位置づけになっている。演奏会でいうなら、やっぱり異種同士の楽器の合奏でしょう。オーケストラでもいい。彼の作品はオーケストラの演奏によく合うと思うんだ。伊坂は外側に完結している感じなんだけど、いしいは内側に向けて完結している気がする。彼の中で全てが完結している。いうなれば俳句と同じ臭いがする。
今は書籍部の割引セールの時に貧乏性がたたって買った、いしいしんじの『白の鳥と黒の鳥』を読んでいる。これは短編。やっぱりいしいは童話だ。